SSブログ

ヴェルディ『ドン・カルロ』 メトロポリタン・オペラ公演 愛知県芸術劇場大ホール [オペラ]

6月5日(日)、待ちに待ったメトロポリタンの「ドン・カルロ」を観てきました。キャンセル騒ぎについては別記事に書かせてもらうとして、当日の感想を書きます。

carlo1.jpg 入り口でとても立派なプログラムを下さるので、さすがメット、高いお金出しただけあるなぁと感心していましたら、ジャパン・アーツと中京テレビのささやかなお気持ちなんだそうです。メットじゃなくて日本側のプレゼントというところに日米の気遣いの違いを垣間見ます。

私の席は5階の後ろ。それでも32,000円も大枚をはたいて買った席です。舞台の奥までしっかり見えますし、音もそれなりにしっかりはっきり聞こえてきます。ただあまりにも歌手から遠いので、オペラグラスをもってしても、あまり歌手はよく見えるとはいえません。それに第一、同じ5階の私より前の座席の客が少しでも前屈みで観ようものなら、舞台はその人の頭しか見えなくなります。皆さん高額のチケットを買っただけあって、それにはものすごく腹が立っていたようで、直接前の人に文句を言ったり、後ろから肩を引っ張ったりして戻したりしている人がいました。

carlo2.jpg まず今回、清水の舞台から3度ほど飛び降りた気分でこのチケットを買おうと思った、しかも京都から新幹線に乗って行かないといけない名古屋の公演のチケットを買った理由は、まず「ドン・カルロ」には並々ならぬ思いを持っていることと、主役のうち5人も世界的なスターが出演するからでした。私の期待は、1番、ホロストフスキーを一度生で見てみたかった、2番、フリットリの美声をもう一度聞きたかった、3番、このところ売れまくっているカウフマンを一度聞いておきたかった、4番、日本ではあまりお目にかかれない立派なバスとしてパーペの歌唱を楽しみにしていた、の順でした。結果的には1番と4番が叶っただけでしたが、それだけでも今回は本当に納得して帰ってこられました。

幕があくとフォンテンブローの森で、さすがメットだなぁと思う舞台作りと合唱が嬉しかったです。メットはイタリア語5幕版を使うのだそうで、20年前に初めて買ったドミンゴとフレーニのドン・カルロも5幕イタリア語版でした。私が最初に聞いたのは、グラモフォンのスカラ-サンティーニ盤で、これも5幕イタリア語版(モデナ版)だったので、私は4幕イタリア語版よりこの方がずっと好きです。

主役で一番最初に登場、カウフマンの代役のリーは、音色にムラのある人で、高音のアクートは輝かしいのですが、それ以外の中音域の音や、聞かせどころではないところでは、ちょっとまだまだ荒いなーという印象でした。それと、カウフマンの代役としてガッカリさせたくないと思って下さっていたのか、1幕からかなり力が入っていて、このままじゃ中盤以降は大丈夫なのかなと思ってしまう出だしでした。実際5幕幕切れの二重唱は、もう柔らかい声が出なく、始終硬い声の歌唱が残念でした。

続いてフリットリの代役のポプラフスカヤが出てこられますが、この人、コヴェント・ガーデンでのドミンゴのシモンや、同じコヴェント・ガーデンでのヴィジャソンとのドン・カルロのDVDで知っていましたが、声量は凄いけど、歌い回しが少し荒く、上品な歌唱とは言えないなぁと思いました。もちろん世界の主要劇場の主役を張るプリマ・ドンナだけはある風格だし、DVDのアップは辛いけど、舞台で遠くから観ると、背がスラッと高く、とても舞台映えする人だと思いました。しかも、オペラ・グラスで観ていると、本当に演技派の歌手だなぁという印象を受けました。満足度は楽しみにしていたフリットリを上回ることはありませんでしたが、ヨーロッパの公演をキャンセルまでして来て下さって、この大役をここまでしっかり歌って下さったのだから、これ以上文句は持てません。特に5幕の大アリアをあれだけ立派に歌い切るのですから、拍手を送らざるをえません。幕切れの2重唱はリリカルなものだけに、少し彼女の歌唱の荒さが目につきましたが、これはその相手のリーの硬い歌唱にも原因があると思います。

 ホロストフスキーは、DVDで、コヴェント・ガーデンのルーナ伯爵とメットのオネーギンで見て以来、私は骨抜きになっていましたので、初めて登場するサン・フスト修道院が楽しみで楽しみで仕方ありませんでした。初めて見るお姿は、DVDで観ていた時よりも大分老けた感じがしましたが、やはり貫禄のある人でした。ただ2幕1場の歌唱は、声量をかなりセーブしていたのか、もう一つのめり込む音楽ではありませんでした。しかもリーとの2重唱は、ちょっと癖のある歌い回しが耳につき、特に最後の辺りはリーと十分かみ合わず残念でした。ただ2幕2場からはエンジンがかかり始め、パーペとの2重唱や、勿論4幕のロドリーゴの死の場面など、本当にブラーヴォという感じです。この人がアンサンブルをきりりと引き締めるという感じでした。火刑の場での立ち姿もとても格好良く、歌っていない時の演技もしっかりやっているという人でした。幕が進むにつれて、この人、やっぱしルーナやオネーギンのように、ちょっと悪い配役の方が合うんじゃないかなぁと思いました。

ボロディナの代役グバノヴァのエボリはもうがっかりです。特にコロラトゥーラのパッセージが少しある「ヴェールの歌」は、音程もそこそこですし、もう一つ白けてしまいました。逢い引きの場の3重唱もホロストフスキーがいるから劇的に聞けましたし、ドラマティックな「むごい運命よ」は大丈夫かと不安でしたが、これもそこそこという感じでした。

carlo4.jpg それとパーペです。この人やっぱしすごいなぁと思いました。それはそれは存在感のある出で立ちで、顔も苦悩溢れる王という雰囲気を醸し出しています。ロドリーゴとの2重唱や「一人寂しく眠ろう」の凄いこと。ちょっと興奮してしまいました。大審問官がもう一つだったので、大審問官との二重唱は少しアンバランスでしたが、それでもパーペの存在を揺るがすものではありません。この二重唱は大好きな場面だけに、少し残念でしたが、元々の主役が3人もキャンセルした中、大審問官に立派な歌手を求めるのは酷かも知れません。なんせ生パーぺは本当に嬉しい体験でした。

しかしこれだけのキャンセル劇を出した公演で、予定を変えて来てくれたポプラフスカヤとリー、グバノヴァには感謝感謝です。特にポプラフスカヤは今回が日本デビューとかで、こんな形ではなく、十分に計画を整えてから来たかったことでしょうに、本当にありがとうという感じです。

私はあまりオケはわからない方なのですが、レヴァインの代役のルイージ、私の席からはまったく見えませんでしたが、あちこちに私が聞いている「ドン・カルロ」とは違う味付けがなされているところがあり、面白く聞きました。アーティキュレーションやアクセントの付け方でこんなに変わるんだなぁというのが実感です。ただ、5幕の幕切れは、無理矢理デクレッシェンドをかけないで欲しかった。とっても腰砕けで、ここまで長々聞いてきた壮大な終わりに似つかわしくないものだと思いました。

総じて演奏には満足して帰ってきました。さすがメットだなぁという実感で一杯でした。

ホールについて言うと、愛知県芸術劇場は初めて訪れたのですが、びわ湖ホールや兵庫県立芸術センターに慣れてしまうと、まったく前世紀の遺物みたいな構造で驚きました。まず階段の狭さに壁壁です。それと5階って、本当に階段で一生懸命上がらなくてはならず大変でした。客席も無駄な仕切りが多く、回り道を余儀なくされるところが多い多い。この構造、火事が起こったら上階席の人は焼け死ぬか、窒息死して下さいという感じです。それを思うとちょっと怖かったです。それにビュッフェの喧噪、客のではなく、売っている人達の喧噪です。市場の魚屋やあれへんで、高い金払ってオペラ観た後の休憩やのに、雰囲気つぶさんといてくれまっか、って感じです。それと退場する時、劇場の案内の人達が適切に案内しないのにもびっくりしました。すいているエスカレータに人を誘導すればいいのに、誰もいないフロアでボサーッとした係員が数人いるかと思うと、エスカレータの乗り口で耳元で挨拶をする係員。もう少し状況を見て動いて欲しいです。ってことで、どんなに魅力的なオペラが来ても、この会場には二度と足を運ばないことに決めました。

carlo5.jpg 4時間40分にわたる長い公演、最終の新幹線を心配しましたが、名古屋駅でひつまぶしを食べても十分時間があって、無事京都に帰宅しました。贅沢な一日でした。

続きにキャンセルについての思いを書きます。
nice!(0)  コメント(0)