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『清教徒』 ボローニャ歌劇場公演 (びわ湖ホール) [オペラ]

puri01.jpg フローレスの突然のキャンセルが悲しくて、今日のびわ湖ホールへの足取りはとっても重く、嫌な気分でした。色々なことが頭の中を巡り、嫌な気分がスパイラルになっていました。来られている方々はそれほど怒っている様子もなく、ロビーではキャンセルで来ていないフローレスのDVDが売られている...。メトロポリタンのキャンセル騒ぎよろしく、全員にプログラム配布(うちは家族で2冊もゲット。ありがたや、あなありがたや)。そしてまず最初に歌劇場総裁からの謝罪の辞。聴いていて体が震えるほどの嫌悪感。メト公演の時のようなブーイングもなく、拍手のうちに曲が始まりました。
 そんな私も、序曲が終わり、合唱が始まると心も緩みます。あぁ、イタリアの声、やっぱしイタリアの声は違う...。それからというもの、至福の3時間でした。今回の公演は、かなりのハイレベルで、結果的にフローレスが歌っていなくてもよいかと思える内容でした。

 まず一番感激したのはヒロイン役のランカトーレです。最初登場した場面は音質が不揃いで「あれっ」っと思いましたが、歌い進めていくうちにそれもなくなっていきました。ただ、低音で胸声を使って歌う音が平べったくてとても耳障りな時がありました。しかしそれはアウフタクト部の音に多く、中音以上の音にはなかったので、しかたないのかなぁ。次に聴ける機会があれば、この音がなくなっていたらいいなぁ。
 それを除いては、コロラトゥーラもカンタンテの部分も本当に巧い。声もとても深みのある柔らかいいい声です。2幕の狂乱の場、今回の公演でフローレス・キャンセル後に使われていた宣伝の「ランカトーレ・カデンツツァ」って、この狂乱の場での2回目のヴァリアンテのことだそうで、そのヴァリアンテは、これもまた巧い。安定しているしよく響いている。しかも寝転びながらの無理な姿勢での歌唱。とってもスリリングで楽しかったです。勿論3幕でのアルベロとの二重唱もツボをよく捉えて歌う姿は憎いばかりです。それに幕切れ...。
puri02.jpg アリアや二重唱が終わるごとに盛大な拍手喝采をもらっていましたが、特にカーテンコールでは本当に嬉しそうで、主要キャストと手をつないでは、舞台前面に走り出てくる様子は心からこの公演を楽しんだという感じでした。ああ、ランカトーレ、なんと素敵な人なんだぁ。見た目もとてもチャーミングな人でした。

 その次に感動したのはテノールのアルベロ。今や世界のフローレス(日本の歌手に不義理しても、世界にはたくさんのファンがいるから大丈夫とでもいいたげな不遜さ)の代役となるとプレッシャーも大きかったでしょうが、このアルベロ、とっても綺麗な声と端正な歌で、歌い出しから気に入ってしまいました。登場のソロのハイDisを聴いて、あぁ、と、本当に胸をなで下ろしました。勿論たくさんの拍手をもらっていましたから、ご本人も安心されたんじゃないでしょうか。 
 声量がある人ではありませんでしたが、3幕冒頭のソロも端正な歌唱を聴かせてくれますし、ランカトーレとの二重唱ではハイD2回を出しながらも朗々とした旋律美を披露してくれました。また最後のコンチェルタートでは、出ましたハイF(家に帰ってからフローレスのDVDで確認しましたが、それより高い音でした)。ファルセットを使うことなく出していましたよ。しかしテノールのハイFって、もう人間の声ではないような凄い声ですね。勿論高音ばかりではありません。しっかりとアンサンブルのバランスもよく、いやはや、本当にいい歌手を聴かせてもらうことになりました。 

 フローレスのキャンセルでがっかりしていたのですが、気づいてみると、このオペラではテノールは超絶技巧を要求されてはいるものの、実際歌うのは1幕3場と3幕だけ。一番おいしいところだけ歌うという役。だから、プリマ・ドンナ・オペラと考えれば、全体はとっても楽しめるものだったのです。それにアルベロ、この5月にメトの来日公演でカウフマンの代役をつとめたヨンフン・リーに比べると、ずっと満足できる代役でした。

 腎臓結石のためにキャンセルしたガザーレの代役サルシも大健闘です。1幕1場でのソロは、とても安定していてよく伸びる朗々とした声でした。ガザーレがどんな人かも知らないので比較はできませんが(後で調べて見ると前回のボローニャ公演でルーナを歌っているのを聴いていました)、私はこの歌手でも十分満足です。骨格の関係でか、日本人のバリトンでこんな風に深みのある声は少ないから、とても気持ちよく聴かせてもらいました。
 バスのウリヴィエーリもサルシと同じく、朗々とした歌いっぷりがイタリアを感じさせ、とてもよかったのです。この役本来はバスのようで、ウリヴィエーリの声は明るくって軽めのバスだったので、2幕最後のサルシとの二重唱ではあまり区別が付きにくく、少し残念でした。

puri03.jpg  一番感心したのはベルリーニの書いた音楽が、とても甘美であり、劇的な部分もしっかり押さえてあるということでした。ストーリー展開はあまり納得がいかないものの、歌手が堂々としていて、まるで歌舞伎を見ているようでした。
 っと、残念なことは演出です。特に合唱の動かし方を見ると、これは一体学校演芸会の出し物ですかって感じです。変な手の動きも気になりますし、揃って動かないと意味がないであろうマスゲームも、バラバラに動かしている人が、いるいる何人も。ちゃんと並べない人もいたみたいだし、その辺は大変そう。

 概して、今日の演奏は本当に満足のいくものでした。ただ、だからと言って、最初からこのキャストで売られていたら、こんなに高額なチケット代を支払って買ったかというと、???です。
 今回、私の大きな反省点は、こうした外来オペラに手を出したことです。以前、ナポリ・サン・カルロ来日公演でリチートラ、前回のボローニャ来日公演でアラーニャ(いずれもマンリーコ)を聴きに行ったことがありますが、それ以来、こんなに高額な来日オペラ、羨ましくは思ったものの、実際に聴きに行こうという興味すら持っていませんでした。今から思うと、それがやはり自分の経済状態から考えると正しい選択であったと思います。
 今回はメトにしてもこの公演にしても、どうしても生で見たかったホロストフスキーやフローレスと言った、やはりスター歌手に目がいってしまったところがあります。オペラは総合芸術で、1人2人だけの手になるものではありません。そこにばかり目を向けるようでは、オペラファンとしてはまだまだ浅いものだと思ってしまいます。

 考えてみると、看板歌手が来ないからと言って、あれだけの人達が動くのですから、相当の費用もかかるでしょうし、高額であることは変わりありません。とても腹立たしい日を過ごしてきましたが、代役で来てくれた人達、オーケストラや合唱の人達、それにスタッフの人達がプロの心意気を見せてくれた公演だったと思います。(その分フローレスの評価は私の中では随分下がってしまいますが...。)

 ランカトーレ、アルベロ、他のキャストや楽団、スタッフのみなさん、日本に来てくれてありがとう。
 東京での公演も盛会になって欲しいものです。

*後述 今ではすっかりフローレスのファンに戻っております(^^;)
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ボローニャ歌劇場 ファン・ディエーゴ・フローレス キャンセル [オペラ]

「あのマリア・カラスの生の舞台を同時代に生きて享受できたオペラファンは人類史的幸運であったが、それ以来のオペラ史的至福と云えば、100年に一人のテノール、フローレスを今聴くことができることと言っても過言ではない。ハイCよりも高い音が何度も出てきて、オペラ史上最高音をテノールに要求する、本場イタリアでも上演至難な「清教徒」を遂にフローレスで、日本で実現!ランカトーレ、ガザーレ等、当代の純イタリアン・ベストメンバーの瑞々しい声を揃え、ブルーを基調とした美しい新演出の装置も見逃せない。オペラ愛好家のあなたなら、これを聴かずして何を聴く!!」

「オペラ史上の奇跡!100年に一人のテノール、フローレスによる超高音オペラ。マリア・カラス以来の歴史的な至福の体験、これを聴き逃したらオペラファン一生の悔い・・・」
(ボローニャ歌劇場びわ湖公演チラシより)

S席54,000円、A席46,000円、B席39,000円、 
C席32,000円、D席25,000円、E席17,000円

 フローレスは大好きなテノール。CDもDVDもたくさん買い込んで聴いてきました。そのフローレスが関西に来ると聴いて、なんとしてでもチケットを買いたかった。財布と相談して、32,000円で最上階の後ろから2列目の席を、昨年12月に、チケット争奪選で手に入れました。この席からは小さいだろうなぁ、でも声はよく聞こえるはず。32,000円でも分不相応。これ以上の出費はできません。
 同じ劇場の「カルメン」のカウフマンは、メトロポリタンの引っ越し公演の時に、「放射能が怖いから」来なかったから、どうせ今回も来ないだろうと思っていたら、案の定キャンセル。今回のキャンセルは「私自身、日本に行くことを非常に楽しみにしており、皆様にまずお伝えしたいことは、この数か月間、日本の皆様が直面している状況を理由にお伺いできなくなったのではありません。(本人による謝罪文より。ボローニャ歌劇場メイン・ページ)」だそう。Heldentenorを歌う現在の状況に腹立ちながらも、フローレスは何の発表もしていないから、さすがフローレスだと思っていました。
 リチートラの訃報を知り、凄くショックを受けながらも、ボローニャの「エルナーニ」の代役は誰になるのか調べようとボローニャのメインページを見てみると、フローレスのキャンセルの情報が載っていました。目を疑いました。しかも理由が理由です。

「フローレスからのメッセージ
 親愛なる日本の友人の皆さま、ファンの皆さまへ
 悲しいことに、病気を理由に9月のボローニャ歌劇場公演における「清教徒」に出演できなくなったことをお知らせしなくてはなりません。海水を飲みこみ激しく咳込んだ時に声帯の開口部分の細い血管を傷つけてしまいました。深刻な病状というわけではありませんが、この状態では歌うことが出来ません。しばらくの間休養が必要です。久々に日本を訪れることを待ち遠しく思っていました。そして、その地で大切なファンの皆さん、友人の皆さんに再び会えることも。一方で、私にとって大変特別なオペラである「清教徒」を歌うことが楽しみでした。
 これまで何度も日本を訪れました。私の心に残っているのは美しい思い出ばかりです。そして、再び日本を訪れる機会が来ることを待ち遠しく思っています。
 皆様にはご理解頂けますと幸いです。
 フアン・ディエゴ・フローレス」

 この人は日本であれだけの内容の宣伝をされていたのにも関わらず、上演ギリギリのこの時期になり、キャンセルです。プロフェッショナル失格ではないですか。
 本当は放射能が怖かったならもっと早い時期にそう言えばいいだろうし、主催者側もあれだけの宣伝を打っているのだから、このオペラの公演は中止して払い戻せばいいのではないでしょうか。
 しかも代役は、今まで名前も聞いたことのないテノールです。まだ劇場メインページにはその人の詳しい情報は載っていませんが、今日主催者側から送られてきたお詫び状にはこうあります。

「これに伴い、アルトゥーロ役は、セルソ・アルベロが演じることが決定しました。アルベロは2009年にボローニャ歌劇場「清教徒」のアルトゥーロ約として、フローレスと交代で出演しており、ベッリーニのオペラの現在最高の演奏家の人です。」

 私たちはボローニャにいてこのオペラを観るわけでもなく、交代で出演しているからといって、フローレスと同じ高額な代金を払って観る理由がないのですが...。大体、宣伝で言っていたフローレスのことはどこでどう代償を払ってくれるのでしょう。これでは納得がいきません。ちなみに今日掲載されている宣伝にはこうあります。

「イタリア、若手コロラトゥーラ・ソプラノNo.1のデジレ・ランカトーレによる「清教徒」最大の見せ場:「狂乱の場」。ここでランカトーレが繰り広げるはずの、前代未聞の、壮絶なカデンツァ(即興歌唱)は必聴!
 若きランカトーレの「清教徒」デビューは、2008年9月シチリア島パレルモ、マッシモ大劇場であったが、第二幕「狂乱の場」の場での、彼女の独自の、「カデンツァ」は、誰もが耳を疑うような、上記諸先輩からも聞いたことのない、度肝を抜くような、壮絶なカデンツァ(即興)であった。人呼んでこれを「ラントーレ・カデンツァ」と云う。ピエラッリがオリジナルの演出を手掛けた、ブルーを基調とした美しい装置も絶対に見逃せない。」

 確かにランカトーレは巧いです。フローレスとランカトーレの組み合わせをどんなに楽しみにしていたことか。しかし、最初の宣伝ではランカトーレについて、ここまで書いていなかったのに、今はこの宣伝で、完全にランカトーレ売りに換わってしまっています。それほど代役のテノールがいいのなら、その人の宣伝を一番に書けばいいのになぁ。
 
 震災以降、日本経済は大変な時期にあります。同じ日本人、お金を使うなら日本に落としたい。どうして、違う歌手に変えたイタリアの劇場に、これだけのお金を支払わねばならないのか、納得がいきません。

 怒りと無念さは、どうしても押さえきれません。

 蛇足ながら、バリトンもキャンセルで変更されています。
「「清教徒」リッカルド役変更のお知らせ
「清教徒」に出演予定でしたアルベルト・ガザーレですが、重度の腎臓結石による痛みと発熱のため、医師より15日間の安静が必要との診断を受け、来日できないこととなりました。つきましてはリッカルド役は、ルカ・サルシが演じます。何卒ご了承いただけますようお願い申し上げます。
 なお、今回の出演者変更に伴うチケットの払い戻し、公演日・券種の変更はお受けできません。何卒ご了承を賜りますようお願い申し上げます。2011年9月2日 フジテレビジョン」

 主演者が3人も入れ替わった「カルメン」に比べたらまだましかもしれません。ボローニャとフジテレビは、ここまでして、高額なチケットの払い戻しをしたくなくて、しかも歌手たちのコンディションのつけを私たち日本人、何も文句を言わない日本人におしつけたいのでしょうか。

後述:しかし随分腹を立てている文章なので、少し修正加えておきました。(2023.8)
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